5年1組12番 中嶋叶美『言い返す鏡』

ショート怪談

言い返す鏡

中嶋 叶美

なんか、あの子ってほんと地味すぎるよね。

今日トイレで、「なにその髪型、鏡でも見てきたら?」って言ったら、ぜんっぜん反応しなくてさ。

つまんない。まぁいいや。

家に帰ってから鏡見てたらさ、鏡の中の私、めっちゃ変な顔したの。

いやいや、そんな顔してるわけないし!って思ったけど…あれ、口が動いてる?

「なにその性格、鏡見てきたら?」って鏡の私が言うの。

は?私、そんなこと言ってないし!…いや、言ったっけ?

とにかくおかしいんだよ!

次の日、クラスでまたいじった。「バカみたいな顔してんじゃん」って言ったのに、

また帰って鏡見たら、そっくりそのまま返してきたし!

笑ってる私が怒ってる目してるとか、おかしいじゃん?

数日後には、鏡の中の私が勝手に動くんだよ。

めっちゃニヤニヤしてるし!私、そんな顔してないから!

それでさ、ついに「鏡変だよ!」ってママに言ったら、「それ、アンタのせいじゃない?」

とか言われるし。いやいや、そんなわけないし!

でもさすがにヤバいから「もう意地悪言わない」って鏡の前で謝ったんだよ。

でもさ、鏡の私がじーーーっと見てきて、「遅いよ。こっちが本物だから」って言うんだよ?

何これ!?もう意味わかんない!

井上 玲

正直、最近クラスの雰囲気変なんだよね。

特に叶美。あの子、いっつも意地悪言ってるのは知ってたけど、なんか様子が変で。

なんて言うか…少し怖いくらい。元気だけが取り柄だったのに、最近やたら鏡を見てるし。

前の席で授業中にノートに何か書き込んでるけど、全然手元が進んでないの。

変だと思ったのはそれだけじゃない。

ある日、昼休みにトイレで叶美を見かけた。

鏡に向かってずっとしゃべってる。

普通じゃないって思ったけど、近くに行ってみたら、鏡を見てない。

視線はずっと鏡の中の自分に。

話してる言葉は聞き取れなかったけど、鏡の中の叶美が動いたのが見えたの。

私、後ずさりしたけど、あの瞬間、鏡の中の叶美が笑ってるのがわかった。

その夜、私も変な夢を見たんだ。

夢の中で、鏡の前に立っている自分がいて、その鏡の中の私が動き始めた。

もう一人の玲が私に手を伸ばしてきて、目を真っ直ぐ見つめて、「叶美のせいで壊れたよ」って言ってきた。

その瞬間、目が覚めたけど、胸の鼓動が止まらない。

次の日学校で、叶美にその夢の話をしてみたんだ。

そしたら叶美はじっと私を見つめて、「鏡の話?それ以上言ったら…本物じゃなくなるよ」と言った。

何それ?本気なの?私、冗談だと思いたいけど、なんかその目の奥の何かにぞっとして。

それ以来、私は鏡の前に立つたびに自分が動いてないか確認するようになった。

でもね、時々鏡の奥に、どこかで笑っている叶美がいる気がしてならない。

5年1組担任 原田 萌音

最近、中嶋叶美の様子がどうも気になっていた。

普段は口が達者で元気いっぱいの子なのに、妙に静かになったと思えば、

鏡をじっと見ていることが多くなった。

授業中も上の空で、ノートを開いているだけで筆が動かない。

担任として何か話を聞いてあげるべきだと思い、放課後に声をかけた。

「叶美ちゃん、最近元気ないみたいね。どうしたの?」

彼女は視線を伏せたまま、鏡に関する話をぽつりぽつりと語り始めた。

その内容は奇妙で、鏡の中の自分が勝手に動いたり、話しかけてきたりするというもので、

最初は何かの空想かと思った。

しかし、真剣な目で話す彼女を見ているうちに、その背後に潜む何かに気づかざるを得なかった。

その夜、私も妙な夢を見た。夢の中で、職員用トイレの鏡の前に立っている自分の姿があった。

そして鏡の中の私は、私とは違う表情でじっとこちらを見つめていた。

その目には、何か訴えかけるものがあったが、その意味を解釈する余裕もなく目が覚めた。

翌日、叶美は学校に来なかった。

電話で母親に確認すると、

「あの子、朝から鏡に向かって話してばかりで…とうとう学校に行くって言わなくなった」

とのことだった。胸に不安が募った私は、放課後彼女の家を訪ねることにした。

彼女の部屋に足を踏み入れた瞬間、鏡が目に留まった。

それは普通の鏡だったが、その中に見える叶美は、外の彼女とは違う表情をしていた。

鏡の中の叶美は笑っていた。

しかし、現実の叶美は泣きながら「もう鏡から出られない」とつぶやいた。

その姿に私は言葉を失った。

それ以来、叶美は学校に来ていない。

叶美は体調を崩して、しばらく休むことになる、とクラスで伝えた。

しかし、時々校内の窓に、笑う彼女の姿が映ることがある、と児童が言う。

叶美はどこにいるのか、そしてあの鏡は何だったのか…。私には答えがわからない。

ただ、一つだけ確かなのは、彼女が今までしてきたことの報いだということだ。

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