5年1組15番 三上彩佳『見えすぎるメガネ』

ショート怪談

見えすぎるメガネ

三上 彩佳

最近、中学受験の準備で忙しい。

勉強しないといけないけど、なんだか集中するのが苦手。

だから、勉強モードに入るためのメガネが必要なんだ。

でも、そのメガネがまた見当たらない!

これがないと、どうしても勉強に取り掛かれない気がする。

部屋を探してみたけど、どこにもない。

仕方なく、兄の机の引き出しを開けてみたら、兄のメガネを見つけた。

このメガネ、確か兄が勉強するときに使ってたやつだよね。

今は兄も使ってないみたいだし、「後で返せばいいか」と思って、かけてみた。

その瞬間、教科書の文字がいつもよりもくっきり見える。

なんだかこれ、すごく使いやすいな…と思った矢先、ページの隅に知らない文字が見えたんだ。

「この問題、間違えたら来るよ。」って。意味がわからなくて、すぐ兄に聞いてみたの。

「ねえ、このメガネ、変な文字が見えるんだけど?」

兄はちょっと黙ってから言った。

「俺も受験前にそれ使ってたけど、途中から怖くなってやめた。間違えると、部屋の隅に誰かが立つんだ。それで近づいてくるから。」

そんなの嘘でしょ!って思ったけど、夜に勉強していると視界の端に黒い影が見えてしまった…。

間違えた問題の分だけ影が増えていって、翌朝にはメガネに指紋みたいな跡までついてた。

兄が言ってた通り、使うのをやめるべきだったのかな。

でもメガネを外した後でも、影がまだ見える気がする。

教科書には最後にこう書かれていた。「もう、メガネはいらないね。あなたの目、もう十分見えるから。」

飯塚こころ

彩佳が学校でなんだか変だったのは、今週のはじめ頃からだったと思う。

普段は宿題を忘れたり、急いでやったりしてる彩佳が、突然ものすごく真剣になったんだよね。

集中しているのは良いことだけど、どうも雰囲気が変わってきた気がしてた。

授業中にノートを取る手がふと止まることがあったり、何もない場所をじっと見てることが増えたりして、ちょっと心配になった。

だから、放課後に声をかけてみた。

「最近どうしたの?なんかぼーっとしてるよ?」

「ううん、なんでもない!」って笑ってたけど、目が笑ってなかった。

どこか不安そうな感じ。

数日後、彩佳がまた少し変なことを言ったんだ。

「最近誰かに見られてる気がする…」って。

最初は冗談かと思ったけど、彼女の表情が本当に真剣で、ゾッとした。

それで意を決して、私の家に来てもらって一緒に勉強しようって誘ったんだ。

その日、彩佳がメガネをして勉強してるのを見たとき、何も言えなくなった。

彼女の視線がどこか遠くを見てるようで…私は怖くて「もうそのメガネやめたら?」って言いかけたけど、彩佳はこうつぶやいた。

「大丈夫、もう見えるから…。」

その言葉が、私に言ったのではないような気がして、寒気がした…。

三上彩佳の兄 三上克樹

彩佳がメガネを使い始めてから、不気味さが増していくのをずっと感じていた。

部屋の雰囲気が変わり、まるで空気が重くなったような気がしたんだ。

ある日、妹の机に置かれた教科書が目に入った。

彩佳は黙々と問題を解き続けているけど、妙な違和感があった。

その教科書のページ、隅々まで文字が書き込まれていて、その内容に俺は背筋が凍った。

「帰れない」「許されない」「待っている」「あの部屋の隅に」「目を閉じても見える」「ずっと見ている」―そんな意味深な言葉が、ページの余白にびっしり書かれていたんだ。

俺が息を呑んでいると、彩佳が俺を見上げてこう言った。

「カツキ、これが全部だよ。もう消せないし、逃げられない。」

その瞬間、部屋の隅に濃密な影が浮かび上がった。

最初はただの暗がりだと思っていたが、その影はゆっくりと形を取り始め、こちらをじっと見つめていることに気付いた。

その瞳のようなものが、冷たい視線を投げかけていた。

俺は無理やり目を閉じたけど、閉じた瞼の裏でもその影が見え続けるんだ。

妹の教科書を手に取ると、最後のページにこう書かれていた。

「これで終わりじゃない。これからが始まり。」

俺は恐怖に駆られ、その教科書を部屋の隅に投げ捨てた。

けれどもその瞬間、彩佳が穏やかに笑って言った。「無駄だよ、もう全部見えてるから。」

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