見えすぎるメガネ
三上 彩佳
最近、中学受験の準備で忙しい。
勉強しないといけないけど、なんだか集中するのが苦手。
だから、勉強モードに入るためのメガネが必要なんだ。
でも、そのメガネがまた見当たらない!
これがないと、どうしても勉強に取り掛かれない気がする。
部屋を探してみたけど、どこにもない。
仕方なく、兄の机の引き出しを開けてみたら、兄のメガネを見つけた。
このメガネ、確か兄が勉強するときに使ってたやつだよね。
今は兄も使ってないみたいだし、「後で返せばいいか」と思って、かけてみた。
その瞬間、教科書の文字がいつもよりもくっきり見える。
なんだかこれ、すごく使いやすいな…と思った矢先、ページの隅に知らない文字が見えたんだ。
「この問題、間違えたら来るよ。」って。意味がわからなくて、すぐ兄に聞いてみたの。
「ねえ、このメガネ、変な文字が見えるんだけど?」
兄はちょっと黙ってから言った。
「俺も受験前にそれ使ってたけど、途中から怖くなってやめた。間違えると、部屋の隅に誰かが立つんだ。それで近づいてくるから。」
そんなの嘘でしょ!って思ったけど、夜に勉強していると視界の端に黒い影が見えてしまった…。
間違えた問題の分だけ影が増えていって、翌朝にはメガネに指紋みたいな跡までついてた。
兄が言ってた通り、使うのをやめるべきだったのかな。
でもメガネを外した後でも、影がまだ見える気がする。
教科書には最後にこう書かれていた。「もう、メガネはいらないね。あなたの目、もう十分見えるから。」
飯塚こころ
彩佳が学校でなんだか変だったのは、今週のはじめ頃からだったと思う。
普段は宿題を忘れたり、急いでやったりしてる彩佳が、突然ものすごく真剣になったんだよね。
集中しているのは良いことだけど、どうも雰囲気が変わってきた気がしてた。
授業中にノートを取る手がふと止まることがあったり、何もない場所をじっと見てることが増えたりして、ちょっと心配になった。
だから、放課後に声をかけてみた。
「最近どうしたの?なんかぼーっとしてるよ?」
「ううん、なんでもない!」って笑ってたけど、目が笑ってなかった。
どこか不安そうな感じ。
数日後、彩佳がまた少し変なことを言ったんだ。
「最近誰かに見られてる気がする…」って。
最初は冗談かと思ったけど、彼女の表情が本当に真剣で、ゾッとした。
それで意を決して、私の家に来てもらって一緒に勉強しようって誘ったんだ。
その日、彩佳がメガネをして勉強してるのを見たとき、何も言えなくなった。
彼女の視線がどこか遠くを見てるようで…私は怖くて「もうそのメガネやめたら?」って言いかけたけど、彩佳はこうつぶやいた。
「大丈夫、もう見えるから…。」
その言葉が、私に言ったのではないような気がして、寒気がした…。
三上彩佳の兄 三上克樹
彩佳がメガネを使い始めてから、不気味さが増していくのをずっと感じていた。
部屋の雰囲気が変わり、まるで空気が重くなったような気がしたんだ。
ある日、妹の机に置かれた教科書が目に入った。
彩佳は黙々と問題を解き続けているけど、妙な違和感があった。
その教科書のページ、隅々まで文字が書き込まれていて、その内容に俺は背筋が凍った。
「帰れない」「許されない」「待っている」「あの部屋の隅に」「目を閉じても見える」「ずっと見ている」―そんな意味深な言葉が、ページの余白にびっしり書かれていたんだ。
俺が息を呑んでいると、彩佳が俺を見上げてこう言った。
「カツキ、これが全部だよ。もう消せないし、逃げられない。」
その瞬間、部屋の隅に濃密な影が浮かび上がった。
最初はただの暗がりだと思っていたが、その影はゆっくりと形を取り始め、こちらをじっと見つめていることに気付いた。
その瞳のようなものが、冷たい視線を投げかけていた。
俺は無理やり目を閉じたけど、閉じた瞼の裏でもその影が見え続けるんだ。
妹の教科書を手に取ると、最後のページにこう書かれていた。
「これで終わりじゃない。これからが始まり。」
俺は恐怖に駆られ、その教科書を部屋の隅に投げ捨てた。
けれどもその瞬間、彩佳が穏やかに笑って言った。「無駄だよ、もう全部見えてるから。」
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