5年1組16番 安田駿『終着駅』

ショート怪談

終着駅

安田 駿

休日の電車旅は、ぼく安田駿にとって特別な時間だ。

小児運賃って便利だよね。

遠くまで行っても千円もかからないんだから。

両親も鉄道好きだから、週末になると旅費を快く出してくれる。

だから今日も電車に乗って、一人旅に出ることにしたんだ。

今日は、無人駅まで行くと決めていた。

古びたホームや草むらの間にある細い道を見ると、冒険心がわいてくる。

やっぱりこういう場所が好きなんだよな。

夕方、無人駅のホームで次の電車を待っていると、突然、耳慣れない音が近づいてきた。

時刻表には書かれていない列車だ。

車体は古びていて、窓も曇っている。

胸が高鳴った。「これ、普通の電車じゃない!臨時列車かな?めちゃくちゃレアな車体だ!」

友達に自慢できるぞ、ってわくわくしながら、無人の車内に足を踏み入れた。

そこで見つけたのは一枚の薄汚れた乗車券。

行き先の欄には「終着駅」とだけ書いてある。

古い切符って面白いよね。

昔のものを真似て作るYouTuberの動画をよく観ているから、「よくできてるな」と感心したんだ。

でも、その乗車券を裏返してみると、そこにはぼくの名前がしっかりと書かれていた。

「安田駿」って。…どういうこと?

びっくりして車内を見回しても、誰もいない。

列車は静かに動き始めて、窓の外には見慣れない景色が広がっていく。

しばらくして列車が止まり、ドアが開いた。そこに広がっていたのは暗くて広い場所。

誰もいない。

場違いな雰囲気に胸がざわざわしていると、古ぼけたスピーカーから声が聞こえてきた。

「あーなたーは、選ばれーまーしーたー! あーなたーは、選ばれーまーしーたー! あーなたーは、選ばれーまーしーたー!」

放送が急に途切れる。

なんだこれ、なんだこれ、なんなんだ、一体。

怖い。

足元が震えてくる。

その場をうろうろしていたら、ぼくの名前が刻まれた石碑を見つけてしまった。

古びていて、まるで何年も前からそこにあったみたいだ。

逃げたい一心で電車に戻ろうとしたんだけど、電車はもうどこにもなかった…。

塚本 涼太

駿の失踪のニュースを聞いたとき、ぼくは信じられなかった。

駿がどうして、あんな遠くの県で警察に保護されるなんてことが起きるのか。

彼はその日、一人で電車旅に出かけていた。

それはいつものことだ。

鉄道好きな彼にとって、冒険の日だったはずなのに…。

教室は静まり返り、みんながその話題をひそひそ話していた。

先生は気を使って特にその話題に触れなかったけれど、ぼくは頭の中が駿のことばかりだった。

彼が何を見て、何を経験したのか、想像するだけでぞっとする。

数日後、ぼくは駿と直接話す機会を得た。

保護された駿は疲れ切っていたけど、ぼくを見るなり

「あの列車のことを聞いてほしい」と呟いたんだ。

「臨時列車に乗ったんだ。それがすごくレアな車体でさ、誰もいない車内に乗ったんだ。

そこにね、薄汚れた切符があったんだ。でも、その裏側には僕の名前が書いてあった」

ぼくは彼の言葉を信じるべきか迷った。

でも、彼の顔を見ると、冗談でこんなことを話している様子じゃない。続けて彼は言った。

「その切符に書いてあった行き先は『終着駅』。電車が動き始めて、見慣れない景色ばっかり。

止まった場所で、僕の名前が刻まれた石碑を見つけたんだ。

それが何年も前からそこにあったみたいで…でも、電車はもう消えてた」

ぞっとした。駿の言葉のリアルさが、ぼくの中に恐怖を植えつけた。

彼が経験したことは、本当に現実だったのか、それとも何かの幻だったのか。

でも一つ確かだったのは、駿はその場所で何か特別なものに「選ばれて」しまったのかもしれない。

安田駿の父 安田武雄

駿がW県で保護されたと知ったとき、正直、心の底がひっくり返る思いだった。

W県は私の故郷であり、数十年足を踏み入れていない場所だ。

それだけに、なぜ駿がその場所にいたのか、ただの偶然だとは思えなかった。

駿を引き取りに行く道中、子どもの頃の記憶が蘇った。

W県の山あいには、地元の人々が「あの電車」と呼ぶ謎めいた列車の噂があった。

私も一度だけ、その話を耳にしたことがある。

年配の人々が口を揃えて言うのは「あの列車に選ばれた者は、運命に導かれる」という奇妙なものだった。

何か儀式的な要素があったとも聞いたが、それ以上の詳細は闇に包まれていた。

駿に再会すると、息子の顔はどこか遠くを見つめているようだった。

疲れているのはもちろんだが、何かを背負っているような…。

落ち着いた頃、駿から話を聞いた。

「お父さん、信じてもらえないかもしれないけれど、本当にあの列車に乗ったんだ」

その一言で、全身がぞくりとした。

駿が語る内容は噂の「あの電車」と完全に符合していた。

そして彼が降りた先には、私の幼少期に聞いた伝説と同じ「選ばれし者の地」が存在したという。

「あの場所で石碑を見たよ。そこに僕の名前が刻まれてたんだ。

何年も前からあったみたいな感じで…」

駿の言葉を聞きながら、私は自分の手の震えを止められなかった。

彼が保護された駅近くには、かつて私の家族が住んでいた集落があった。

だが、その地は大雨による土砂災害で壊滅し、多くの命が失われた。

それ以来、その場所が「忘れられた地」となり、私の家族は別の地へ移り住むことになった。

「駿、お前が行き着いたあの場所は、きっと…私たち家族の因縁が絡んでいるのかもしれない」

それ以上、駿に何を言うべきか分からなかった。

ただ、駿を守るためにこれ以上その地に近づけないようにするしかない、と心に誓った。

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