5年1組3番 荒川太耀 『自由帳』

ショート怪談

自由帳

荒川太耀

僕はちょっと言葉を使うのが苦手で、空気を読むのも得意じゃない。

だけど、絵を描くのが好きだから、それで自分らしさを表現している。

毎日、自由帳に何かしら描いてるんだ。

ある日の帰り道、公園を通りかかったらベンチの上に白い封筒が置いてあるのを見つけた。

誰のものだろう…そう思って手に取ったんだ。

封筒には何も書かれていなくて、中を開けると、真っ白な紙が1枚だけ入っていた。

その紙をじっと見てたら、突然鉛筆の文字が浮かんできたんだ。「見えてる?」って。

その言葉の意味が全然わからなかった。

何が見えてるんだ?誰が書いたんだ?怖くなって封筒に紙を戻して、家まで一目散に走った。

その夜、変な夢を見た。

白い服を着た男の子が僕の自由帳をじっと見つめてるんだ。

一言も言わず、ただページをめくっていて、そのたびに僕が描いたことのない絵が現れるんだよ。

公園のベンチに座っている男の子、近所のコンビニの前を歩いている男の子、それに、うちの近くの曲がり角に立っている男の子の姿…。

目が覚めたとき、すぐ自由帳を確認してみた。そしたら本当に、その絵が自由帳に追加されてたんだ。

「なんだ、これ!」思わず声が出た。

どの絵も僕が描いたみたいだ!

描いた覚えなんてないのに。

答えは見つからないままだった。

その夕方、どうしても気になってまた公園へ行ったんだ。

すると、同じベンチにまた白い封筒が置いてあった。

中の紙にはまた鉛筆で文字が浮かんでた。「見えてるね」って。

それ以来、僕は絵を描くのをやめたんだ。

でも、自由帳のページは毎朝1枚ずつ新しい絵が増えていく。

描かれているのは、僕の家の中。

少しずつ、何かが、いや、誰かが近づいてきている…。

僕にはそれがどうにも止められないんだ。

青木敦志

僕、青木敦志。

太耀とは同じ5年生で、席も近いからよく話すんだ。

太耀はいつも自由帳に面白い絵を描いてるやつでさ、クラスでも「絵の天才」みたいに言われてるんだ。

でも最近、あいつの様子が全然違う。

自由帳を学校に持ってこなくなったし、なんか元気がない。

気になって仕方なくて、思い切って話を聞いてみることにした。

「太耀、最近どうしたんだよ?」放課後に聞いたら、最初は少し口ごもってたけど、やがて彼はポツポツと話し始めたんだ。

公園のベンチで見つけた白い封筒の話、その中に入っていた紙、浮かび上がる「見えてる?」って文字。

そして、それ以来夢に出てきた白い服の男の子のこと。

正直、僕には信じがたい話だったけど、太耀の表情を見てたら、本気で悩んでるってわかった。

特に「自由帳に覚えのない絵が勝手に増えていく」って話は背筋がゾッとした。

僕が「その絵、もっと詳しく見てみたら?」って提案すると、太耀は少しだけうなずいたんだ。

次の日、太耀は新しく自由帳に増えていた絵を持ってきた。

それを一緒に見てみると、なんとなく描かれた場所が分かる気がした。

たぶん、学校の近くの古い橋だ。

「これ、あそこの橋じゃないか?」

僕がそう言うと、太耀は驚いた顔をした。

「…そうかもしれない。でも、なんでそんな場所が描かれるんだろう?」

その答えは、僕にもわからなかった。

でもとにかく、放課後にその橋へ行ってみることにしたんだ。

夕方、その橋の近くを調べてみたけど、特におかしなことは見つからなかった。

ただ一つ気になったのは、橋の下に何か白いものが落ちているのが見えたこと。

でも、それ以上近づくのがなんとなく怖かった。

「どうする?」と僕が聞くと、太耀は小さく息を飲み込んだ後、「…もう少し考える」と言った。

自由帳の絵は何かを伝えようとしてるのかもしれない。

でも、その意味が全然つかめないまま、僕たちはその場を離れた。

解決の糸口は少しだけ見えた気がするけど、問題はまだ深くて、まるで謎が僕たちを試しているみたいだ。

荒川太耀の父 荒川隆介

自由帳に描かれた場所、あの橋に再び足を運んだのは、太耀が「次こそ行かなきゃ」という強い決意を見せたからだった。

その日、息子と一緒に橋の下へ降りていったとき、白い布のように見えたものが、ただのゴミではないことを確信した。

古びた白いハンカチ。

その端に刺繍されていた名前を目にした瞬間、胸がざわついた。

「これ、父さんが知ってる名前?」太耀が尋ねる。

私は答えに詰まりながらも、言葉を選んで話し始めた。

「…その名前は、私の幼なじみだった友人のものだ。

彼は小さい頃、この場所で事故に遭ったんだ。」

その記憶は、私の中で長い間封印されていた。

彼の名前は光一、白い服がトレードマークのような、笑顔が印象的な少年だった。

太耀が見ていた白い服の男の子が彼だと気づくのに時間はかからなかった。

あの事故の後、私は光一の死に何の意味も見出せず、ただ距離を置いて忘れるよう努めていた。

だが太耀が封筒を見つけ、自由帳に絵が浮かび上がるようになったのは、きっと彼が私を呼び戻したかったからだ。

自由帳の最後のページには「覚えてる?」という文字が描かれていた。

太耀は「これが何を意味するか、もうわかる?」と問いかけた。

その瞬間、私は何かを確信した。

「光一は、私が彼のことを忘れるなと言いたいんだ。そして君に、自分が過去に何を背負って生きてきたかを見せたかったんだと思う。」

私の声は震えていた。

それは後悔とも、安堵ともつかない感情が入り混じったものだった。

その日の夜、私の夢の中で白い服の男の子が言った。

「思い出してくれたんだね。」

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