5年1組7番 落合渚央友『放送室の声』

ショート怪談

放送室の声

落合 渚央友(なおと)

あの日のことは今でも鮮明に覚えている。

放送室で昼の放送を終えたあと、何か妙な気配を感じた。

マイクを切り忘れていることに気づき、慌ててスイッチを押そうとした瞬間だった。

「……なおとくん……きこえてる……?」

誰もいないはずなのに、スピーカーから聞こえたその声。

その瞬間、背筋が凍る思いだった。

でも、どうしても誰かのいたずらだと思いたかった。

翌日、さらにおかしなことが起きた。

放送室に入ると、机の上に「きこえてるよ」と書かれたメモが置いてあった。

それは間違いなく僕の字。

でも、僕がそんなメモを書いた覚えはない。

気味が悪くて、その日は一日中落ち着かなかった。

そんな不安が募る中、給食時の放送中に別の怪異が起きた。

流した覚えのない古い童謡がスピーカーから流れ、校舎中がざわついた。

「誰かが歌っていた」という話があちこちから聞こえてきたけど、放送室のモニターからはいつもと同じ、僕が流したオルゴール曲しか聞こえなかったんだ。

どうやらこんな歌だったらしい。不鮮明で聞き取れなかったところもあったみたい。

♪ ひとりで こえを さがしゆく ♪ 

♪ ふたりで こえを わけあうよ ♪ 

♪ みつけた こえは だれのもの ♪ 

♪ やみに きえたら また ひとり ♪

僕は陽翔に相談した。彼なら信じてくれると思ったから。

「放送室で誰かが話しかけてくるんだ」と言うと、彼は真顔で答えた。

「それ、俺も聞いたことある。西小では“声だけの子”がいるって噂があったみたいだ」

その噂を聞いたとき、僕の心はさらに不安でいっぱいになった。

しかもその子は、名前を呼ばれると夢に出てくるらしい。

その夜、僕もその夢を見た。暗い放送室でひとり座っていると、マイクの前に誰かが立っている。

でもその「誰か」は顔がなく、口だけが動いていた。

「次は、きみの声を使うね。」

翌朝、僕の声が出なくなっていた。

病院に行っても原因はわからず、学校を休むことにした。

でも、給食時の放送はいつも通り流れていた。

その声は――間違いなく僕自身の声だったってみんなが言うんだ。

豊田祥也

僕は豊田祥也。

転校してきてまだ馴染んでいないけれど、渚央友とは同じ放送委員ということもあって、少しずつ話すようになった。

彼が放送室で妙なことが起きていると話してきたとき、僕は興味を持った。

転校してきたばかりの僕にとっては、新しい学校のどんな出来事も刺激的だったからだ。

渚央友が話してくれたあの日の放送室の話…それはまるで都市伝説のような雰囲気があった。

「声だけの子」という噂を聞いたことがあるけれど、どこかで誇張されていると思っていた。

でも彼の真剣な顔を見ると、ただの噂話ではないように思えた。

その夜、僕も夢を見た。

渚央友が言っていたように、放送室に座っている自分がいた。

薄暗い室内で、マイクの前には誰かが立っていた。

けれどその「誰か」は顔がない。

ただ、口だけが静かに動いていた。

「声はもういらない。もう見つけたから。」

僕はその瞬間、はっとして目を覚ました。

でも胸の奥に言葉が残っているような感覚は消えない。

そして翌朝、渚央友が声を失ったことを知り、これがただの夢ではなかったと思い始めている。

僕はこの放送室の秘密に触れてはいけない気がする。

でも…触れずにはいられない。

落合渚央友の従兄弟 桜井陽翔

俺は桜井陽翔。

渚央友が不安そうな顔を見せるたびに、何とか力になりたいと思った。

けれど「声だけの子」の噂が、ただの話じゃないと感じたのは、渚央友が声を失ったあの朝だった。

放送室の何かが彼を傷つけている。

そう思い、俺はある決心をした。

その日の放課後、俺は渚央友と小学校に向かった。

渚央友が放送室に忘れ物をした、ということにして。

担任の先生が声が出ないという渚央友をひどく心配しながら放送室の鍵を貸してくれた。

放送室に足を踏み入れた。

古びた機材や椅子、静まり返った室内。

あまりにも普通に見えるこの場所に、そんな不気味な力が潜んでいるなんて信じがたかった。

でも、突然スピーカーが何の前触れもなく鳴り響いた。

その音はただの雑音ではなかった。

気味の悪い童謡がゆっくりと流れ始めた。

♪ ひとりで あるくと ついてくる

 ♪ ふたりで あるくと まっている 

♪ きれいな こえで ぼくをよべ 

♪ つぎは きみが わらってね

その声はひどく低く、歪んでいて、どこか遠くから響いてくるようだった。

俺は鼓動が速くなるのを感じながら、スピーカーに向かって叫んだ。

「渚央友の声を返せ!」

その瞬間、童謡が途切れ、別の音――まるで誰かの絶叫が耳を引き裂くように放たれた。

放送室全体が振動するように感じたけれど、それは一瞬で静けさに戻った。

気づくと、放送室は再び静まり返っていた。

しかし、机の上には1枚のメモが残されていた。

「まだ おわらない」

翌朝、渚央友の声が戻ったことを聞いて、少しほっとした。

しかし、俺の中には妙な感覚が残っている。

校舎を歩いているとき、ふと背後で誰かが俺の名前を呼んだような気がするのだ。

これで終わりじゃない。

俺たちは、まだ放送室の「何か」と向き合わなければならないだろう。

その時が来るのは、そう遠くない未来かもしれない――。

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