5年1組9番 関有人『未来の新聞』

ショート怪談

『未来の新聞』

関 有人

僕、小学5年生の関有人(せき ゆうと)は、穏やかで真面目な性格だとよく言われるけれど、

特に特別なことはない普通の毎日を過ごしている。

兄の隆一とはよくふざけ合ったりするけれど、何だかんだ頼りになる存在だ。

ある日、図書室でちょっとした不思議な出来事が起きた。

僕がたまたま奥の棚を探していると、見たことのないデザインの新聞を見つけたんだ。

その表紙には大きく「未来の出来事」って書かれていて、僕は好奇心に負けて手に取ってしまった。

その中の一番目立つ見出しに、僕の名前が書いてあった。

「関有人、小学5年生、未来の発明で注目を集める」

発明なんてしたことがない僕にとって、それはちょっと信じられない内容だった。

でも気になるから読み進めようとしたら、風もないはずなのに新聞のページが勝手にめくれていった。

次のページには兄の名前が書いてあった。

「関隆一、中学3年生、廊下で影を目撃」

内容を読むと、兄が学校の廊下で奇妙な声を聞いて影を追いかけたという話だった。

僕はだんだんその新聞が怖くなってきた。

「これって本当に未来のことなのかな?」そう思っていると、突然新聞から低い声が聞こえてきた。

「君が未来を知りたいなら、代償を払う覚悟が必要だ。」

その瞬間、僕は恐怖に駆られて新聞を閉じ、元の棚に戻して図書室を飛び出した。

慌てて教室まで戻り、ランドセルを背負って走って帰った。

なんだか少しだけ、追いかけられているような気がした。

自宅に着いたけれど、兄はまだ帰っていなかった。部活を終えて帰ってきた兄に、すぐに伝えた。

「兄さん、この新聞、未来のことが書いてあったんだ!」

兄は僕の話を聞いてもただ笑いながら、「また変な夢でも見たんじゃないか?」と言った。

でも僕にとっては、それが夢か現実かはもうどうでもよかった。

ただ、新聞に書かれた内容が僕たち兄弟に何か影響を与えるのではないかという考えが、

頭の中でずっと巡り続けている。

そして兄が廊下で影を目撃するという出来事が、本当に未来のきっかけになるのかもしれないと思い始めたんだ。

関有人の兄 関隆一

弟の有人が「未来の新聞」を見たと騒いだ時、正直俺は「またか」と思った。

あいつは真面目な優等生だけど、時折妙なことを言い出すことがある。

夢見がちというか、考えすぎというか。

けど、そのときの有人の顔は、いつもと違って本当に怯えていて、

冗談で済ませる雰囲気じゃなかった。

「未来のことが書いてある新聞だって?俺の名前も載ってた?」

普段なら大笑いして聞き流すところだけど、その日は妙に引っかかった。なんでだろう…胸の奥がざわついて、嫌な予感がした。

新聞の話を聞いて数日後、剣道部の活動を終えて、俺はいつも通り学校の廊下を歩いていた。

夕方、誰もいない静かな廊下。

あの日の雰囲気は、いつもと明らかに違った。

どこか空気が重く、まるで廊下自体が息をひそめているようだった。

ふと、視界の端に影が見えた。

人の形をしているようでいて、でも誰もいない。

その影はまるで意思を持っているみたいに揺れながら、廊下の奥へと消えていく。

「なんだ…?」無意識に足が動き、その影を追いかけていた。

心臓が妙に早く鳴る音が耳に響く。

廊下の曲がり角を曲がった瞬間、あの「未来の新聞」のことが頭をよぎった。

「これか…これが、書かれていた影なのか?」

立ち止まると、影は目の前の壁に吸い込まれるように消えていった。

そして、その瞬間、僕の頭の中に不思議な声が響いた。

「未来を知る者よ、それに向き合う覚悟はあるか?」

声の冷たさが、背中にゾッとする感覚を走らせた。

でも、目の前にそれ以上の何かが現れることはなかった。

ただ、あの日以来、僕は「未来を覗き見る」ということの重さを感じるようになった。

家に帰ると、有人が不安そうな顔で僕を見てきた。

「兄さん、大丈夫だった?」その言葉に、俺はただ笑って言った。

「大丈夫だ。でもな、未来を知るより、今をしっかり生きた方がいいみたいだ。」

それで弟が納得したのかどうかはわからない。

でも、俺自身、あの新聞も影も、まだ完全に理解できたわけじゃない。

ただ一つだけ確かなのは、あれは単なる幻や嘘じゃない。

新聞も、影も、確かにこの世界にあった。

けれど、それを本当に解き明かすべきかどうかは、まだわからないままだ。

関有人、隆一の母 関陽子

あの日、隆一と有人の様子をじっと見つめながら、私は心の奥底で不安が渦巻いていた。

誰にも話していなかったけれど、あの「未来の新聞」の話を聞いたとき、私はすぐに思い出した。

自分が同じものを見たときのことを。

私が小学生だった頃、あの新聞を図書室で手に取った瞬間、同じく自分の名前を見つけた。

「関陽子、中学3年生、選択の夜」と書かれていた。

意味がよくわからないままページをめくったら、真っ黒な影が壁に映る図が載っていた。

そして、はっきりとこう書かれていた。

「未来を知る者よ、それに溺れれば、選択の自由は消える。」

そのときの背筋が凍る感覚が、何十年経っても鮮明に蘇る。

私はその新聞を手放し、二度と探すことはしなかった。

でも、ある晩、夢の中で見た光景がまるで現実のように私を襲った。

影の中で選択を迫られる感覚…その瞬間を越えてから、私は「未来を見る」ことがどれだけ恐ろしいかを知った気がした。

今、隆一と有人がその新聞に向き合っている。

私と同じ道をたどるのではないかという不安。

それでも何も言えないまま、「未来」を自分で解釈させるしかないと思っていた。

しかし、隆一が話してくれた。

「母さん、未来を知るより、今を生きた方がいいんだろう?」

その言葉を聞いて、私は少し安心した。

息子は影と向き合いながらも、自分の答えを見つけたのだと感じた。

でも…どこか胸騒ぎが消えない。

新聞に何が書かれていたのか、隆一も有人もすべてを話してはくれなかった。

そして私が見た「未来」は、結局現実にどうつながるのかもわからない。

夕食の後、私は静かな夜の中、ふと思った。

「もし本当に未来を見ることができるなら、その代償は何だろう?」

答えは今もわからない。

ただ、あの新聞が家族に再び影を落とさないことを、切に祈るばかりだった。

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