川辺で響く日常の哲学—『セトウツミ』とその魅力

完結マンガ
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『セトウツミ』とは?

マンガ『セトウツミ』は、川のほとりで繰り広げられる男子高校生2人の会話劇が中心の物語。

それ以上でもそれ以下でもない、とてもシンプルな作品設定。

しかし、そのシンプルさが逆に魅力を引き立てています。

物語の中では、地球を侵略しに宇宙人が来るわけでも、青春ドラマのように甲子園を目指すわけでもありません。

ただただ、川辺でだらっだらとダベる彼らの日常が描かれています。

大事件など起きないからこそ、読者は安心してその世界に浸ることができるのです。

瀬戸小吉の恋愛事情や、内海とのやり取りを見ていると、不思議と自分も川辺で2人と一緒にいるような気持ちになります。

それは彼らの会話がどこか親しみやすく、読者との距離感を自然に縮めてくれるからかもしれません。

私、ヨハネもこの作品を読んで、自分が大学生のときに訪れた下田での思い出が鮮やかに蘇りました。

ゼミの先輩のご両親が運営する私立保育園。

園児がみんな帰った後の夜、保育園内を案内してもらうことに。

講堂のパイプオルガン←園長の手作り!

一室の中に下田で採れた魚だけが泳ぐ水槽がぎっしり。手作り水族館。

園内を見せてもらって、職員室。灯りをつけると、壁面に大きな蜘蛛が点々と。

足を広げた大きさは野球ボールからソフトボールくらい。

「なるほど、ここは、保育園。だからゴムでできた蜘蛛に違いない」

と思い込んだものの、確かめてみよう、と。

恐る恐る、息を吹きかけます。(とてもじゃないが、さわれない)

フーッ、フーッ、動いたー!!

「ゴキブリを食べてくれる、いい蜘蛛なんだよ〜」と先輩は平然としていましたが、怖かった。

海と山に囲まれた気持ちの良い場所でしたが、そこで見たアシダカグモの強烈な印象は今でも忘れられません。

『セトウツミ』の中で瀬戸がクモを怖がる場面に、そんな過去の自分を重ね、木酢液を撒く気持ちにも共感を覚えました。

ただ一方で、「おじいちゃんがいなくなることを珍しくない、とする発言」には少し驚き、共感は難しい。

そんなことが起きたらすぐに探しに行ってほしい。

セトウツミ コミックス1巻より

登場人物

瀬戸小吉 

物語の主要キャラクターの一人であり、会話のきっかけを作る役割を担うことが多い瀬戸。彼は両親が離婚の危機にあるという複雑な家庭環境の中で、寺の娘・樫村さんに淡い恋心を抱いています。

セトウツミ コミックス1巻より

しかしその恋は順調ではなく、メールアドレスを交換したものの、樫村さんに登録されておらず、「知らない人からメールが来て怖い」と内海に相談されてしまうという切ないエピソードも。

瀬戸は不器用ながらも真っ直ぐな性格が魅力で、読者をクスリとさせる場面も多々あります。

また、彼がサッカー部を退部するまでの経緯も興味深い。

練習試合で先輩と揉めた際、鳴山が介入し、「どちらかが退部するように」と迫られるというエピソードがあります。

結果的に瀬戸は身を引くことになりますが、そこにはスポーツ部特有の複雑な人間関係やしがらみに対する彼の反発も垣間見えます。

このシーンは、たった1ページ5コマという短い描写の中で、部活内の葛藤が過不足なく表現されています。

内海

 塾に行くまでの時間を瀬戸と共に過ごすもう一人の主人公。

セトウツミ コミックス1巻より

彼は物事を独自の視点で捉え、時には鋭い考察で読者をハッとさせることも。

高校生活を「3年間の暇つぶし」と評する彼の姿勢には冷めた印象を受けつつも、一種の哲学を感じます。

また、樫村さんとは同じクラスということもあり、親しい間柄。

雨の日に一つの傘を共にするシーンは、彼女との自然な距離感を象徴しているようです。

樫村一期 

寺の娘であり、瀬戸の淡い片思いの相手。

セトウツミ コミックス1巻より

瀬戸は彼女のことを「小悪魔的な魅力と侘び寂び感を併せ持つ」と形容していますが、現状ではその思いは彼女に届いていない様子。

彼女と内海の間には自然な親しみがあり、その微妙な三角関係も物語にさらなる味わいを与えています。

鳴山 

瀬戸と内海にとって避けたい存在である一学年上の先輩。

セトウツミ コミックス1巻より

校内で威圧的な態度をとる一方で、家庭環境が複雑。

両親が離婚しており、父親が18歳まで養育費を支払ったことに感謝しているという場面も。

そんな彼の姿には、表面的な態度だけでなく、彼なりの人間らしさが垣間見えます。

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