ギャグとシリアスのハイブリッド
タイトルを見た瞬間、思わず『ハリー・ポッター』に出てくる架空のスポーツ「クィディッチ」を連想しました。
しかし、いざ読み進めてみると、全く異なる世界観で、似ても似つかない内容に驚きました。
最初は軽いギャグ路線かと思いきや、その後は重厚でシリアスな展開へと一転しつつ、ギャグ要素も絶妙に絡んできます。
『まことちゃん』のコミカルさと『漂流教室』の緊張感が共存しており、そんな異質な要素を一つの作品に仕上げる作者のエネルギーにはただただ感心します。

物語の幕開けは、主人公・群青新太が孤独に戦う場面。
これがどこか『ひとりぼっちの地球侵略』を思い起こさせる描写でした。
冒頭では、カバンから直接イカ焼きを取り出して食べるようなコミカルな描写も登場するのに、巻末に向かう頃には物語が一気に熱量を増し、怒涛の展開に読者は巻き込まれます。
そして、1巻の最後に、おかかたちを守った存在は「ビリイナ」だったのでしょうか?
気になるポイントです。
登場人物
米炊おかか
おかかは、中庭でベクターボールを拾い、それを使って見事にパズルを解きます。
もともとパズルが得意な彼は、人助けが好きなのか、困っている人を見捨てられない性格です。
ただし、ブスを笑うという癖があり、周囲の評判は良くありません。

そのため友人も少なく、魑魅魍魎と会話することはありますが、互いに「友達」だとは認識していません。
しかし、学校で起こる不可解な現象については、おかかが嘘をついたことはないと信頼されています。
松原柚子に対しては「ブス」と酷く罵りながらも、彼女を「自分より偉い」と認め、どこか尊敬しているように感じます。
「この先良いことがないと不公平」とも考え、「ビリイナ」との戦いで命懸けの行動を見せます。
戦闘中に沖縄のシーサーや鬼のような顔つきを見せる描写が印象的です。
群青新太
新太の必殺技、「ベム バゥア ハルバード」の呪文を唱えると、巨大な槍が現れて敵を貫きます。
おかかが投げたアイテムで敵を拘束し、新太の槍でとどめを刺すチームプレーは圧巻。
校舎内のトカゲ男との戦いや、体育館でのバケグモとの戦闘がその典型的な例です。

新太は弟妹の面倒をよく見る優しい兄の一面も持っていますが、妹の看病のために学校を休むこともあります。
また、ジル将軍との戦いでは、おかかと連携して勝利を収めました。
ジル将軍のような「セレクタークラス」に属する敵は、肉体を具現化するだけでなく、鉱物を生成する能力も持っています。
それに比べて、新太自身は「最弱」とされる思念体で、石や鉄のような鉱物を出すのが限界です。
それでも、仲間との協力を通じて数々の試練を乗り越えています。
松原柚子
おかかの向かいのアパートに住む「貧乏なブス」と呼ばれる松原柚子。

しかし彼女は、非常に献身的で優しい性格の持ち主です。
幼い頃、熱射病で倒れたおかかを病院へ連れて行き、その後も親の食事を用意するなど、真心を持って接します。
日直や掃除を押し付けられても文句を言わないその姿勢には、周囲への思いやりが感じられます。
『ベクターボール』は、さまざまな要素が見事に組み合わさった作品です。
それぞれのキャラクターが持つ矛盾や深み、物語のテンポが読者を引き込み、次巻への期待を膨らませてくれます。
読後、じっくりと咀嚼したくなる魅力的な一冊でした!
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